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岐阜地方裁判所 昭和37年(む)397号 判決 1962年12月28日

被告人 岩見又二郎

決  定

(申立人氏名略)

被告人岩見又二郎に対する傷害被告事件について、岐阜地方裁判所裁判官小森武介が、昭和三七年一二月二〇日なした保釈許可決定に対し、右申立人から準抗告の申立があつたので、当裁判所は、つぎのとおり決定する。

主文

原決定を取り消す。

被告人岩見又二郎にかかる前記事件について、昭和三七年一二月一四日弁護人土田光保がなした保釈請求は、これを却下する。

理由

本件申立の趣旨および理由は、岐阜地方検察庁検察官清沢義雄作成にかかる、保釈許可決定に対する準抗告申立並びに執行停止申請書中、申請の趣旨および理由欄(別紙)記載のとおりである。

そこで本件疎明資料を精査するに、本件公訴事実の要旨は、「被告人が、昭和三七年一一月三〇日頃美濃市一、三二二番地の一被告人居宅前路上において、梅村守に因縁をつけ、手拳で顔面を殴打するなどの暴行を加え、よつて、入院加療六日間を要する脳震盪症その他の傷害を負わせた」というのであるが、被告人は、検察官の取調に対し、右暴行および傷害の事実は、概ね認めてはいるけれども、右梅村の検察官に対する供述調書と対比するとき、本件犯行の動機、態様等については、かなりの差異があつて本件は梅村の挑発又は侵害によつて起つたものであるが如く述べており犯情に重要な関係があるのみならず未だ第一回公判前であつて証拠調も開始されておらず本件の罪質、態様などからみて、本件につきその犯情を明かにするためには、今後、公判において、被告人の供述を求めるとともに、梅村その他目撃者らを証人として喚問し、その供述を求めなくてはならぬ必要が生ずることは、充分予見きるところであるが、被告人は美濃、関両市においてその勢威をもつ暴力団の顔役であつて、博徒瀬戸一家十代目と自称し本件関係人を含めた附近住民から、畏怖および嫌忌の目でみられており本件についても事件関係人らに所謂お礼参りの挙に出る蓋然性が高度であると確認させるような行跡が過去にあつたこと、被告人の周囲の者が本事件につき警察に処罰方を申出ている被害者梅村に対し該申出を取下げるよう要求したかの如き事実があること、本件につき、判明している目撃者は、被告人と親近関係にある被告人の妻および知人福沢清にすぎず、その他の目撃者の存在が、容易に推認されるに拘わらず、後難をおそれて積極的に捜査に協力しようとせず、殊に福沢は被告人と特別な間柄にあることを理由に供述を録取されることを拒んでいることといつた諸事情がある。その他各種事情を考慮すれば、今ここで、被告人を保釈する時は将来証人として取調べなくてはならないかも知れない事件関係人らに対し直接又は間接に働きかけて不安な気分を抱かせ自由な供述を求めることが困難となつてその罪証の隠滅をはかる虞があると疑うに足りる相当な理由があること明白である。

してみると、被告人に対し、保釈を許容すべきではなく、更に、刑事訴訟法第八九条第四号第五号の場合に該当し、かつ裁量保釈も相当でないと認められなお勾留を継続すべきものとするのが正当であるから本件準抗告の申立は理由がある。

よつて、同法第四三二条、第四二六条第二項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 石田恵一 重富純和 岩野寿雄)

別紙(略)

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